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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 と考へが道草の蝶に誘はれて、ふは/\と玉の緒が菜の花ぞひに伸びた処を、風もないのに、颯とばかり、横合から雪の腕、緋の襟で、つと爪先を反らして足を踏伸ばした姿が、真黒な馬に乗つて、蒼空を翻然と飛び、帽子の廂を掠めるばかり、大波を乗つて、一跨ぎに紅の虹を躍り越えたものがある。
 はたと、これに空想の前途を遮られて、驚いて心付くと、棟蛇のあとを過ぎて、機を織る婦人の小家も通り越して居たのであつた。
 音はと思ふに、きりはたりする声は聞えず、山越えた停車場の笛太鼓、大きな時計のセコンドの如く、胸に響いてトゝンと鳴る。

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