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『春昼後刻』 泉鏡花を読む
あの貴下、叱られて出る涙と慰められて出る涙とござんすのね。此の春の日に出ますのは、其の慰められて泣くんです。矢張悲しいんでせうかねえ。おなじ寂しさでも、秋の暮のは自然が寂しいので、春の日の寂しいのは、人が寂しいのではありませんか。
あゝ遣つて、田圃にちらほら見えます人も、秋のだと、しつかりして、てん/\が景色の寂しさに負けないやうに、張合を持つて居るんでせう。見た処でも、しよんぼりした脚にも気が入つて居るやうですけれど、今しがたは、すつかり魂を抜き取られて、ふは/\浮き上つて、あのまゝ、鳥か、蝶々にでもなりさうですね。心細いやうですね。
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