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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 あゝ遣つて、田圃にちらほら見えます人も、秋のだと、しつかりして、てん/\が景色の寂しさに負けないやうに、張合を持つて居るんでせう。見た処でも、しよんぼりした脚にも気が入つて居るやうですけれど、今しがたは、すつかり魂を抜き取られて、ふは/\浮き上つて、あのまゝ、鳥か、蝶々にでもなりさうですね。心細いやうですね。
 暖い、優しい、柔かな、すなほな風にさそはれて、鼓草の花が、ふつと、綿になつて消えるやうに魂がなりさうなんですもの。極楽と云ふものが、アノ確に目に見えて、而してんで行くと同一心持なんでせう。

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