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 『日本橋』 青空文庫

 火の影ならず、血だらけの抜刀を提げた、半裸体の大漢が、途惑した幟の絵に似て、店頭へすっくと立つと、会釈も無く、持った白刃を取直して、切尖で、ずぶりとそこにあった林檎を突刺し、敵将の首を挙げたるごとく、ずい、と掲げて、風車でも廻す気か、肌につけた小児の上で、くるりくるりとかざして見せたが、
「あはは。」と笑うと、ドシンと縁台へ腰を掛ける、と風に落ちて来る燃えさしが人よりも多い火の下の店頭で、澄まして林檎の皮を剥きはじめた。
 小僧は土間の隅にさながらのからくり。お世辞ものの女房が居たらば何と云おう。それは見えぬ。

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