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 『薬草取』 青空文庫

 私は新しい着物を着せられ、娘は桃色の扱帯《しごき》のまま、また手を曳いて、今度は裏梯子《うらばしご》から二階へ上《あが》った。その段を昇り切ると、取着《とッつき》に一室《ひとま》、新しく建増《たてま》したと見えて、襖《ふすま》がない、白い床《ゆか》へ、月影が溌《ぱっ》と射した。両側の部屋は皆陰々《いんいん》と灯《ともし》を置いて、鎮《しずま》り返った夜半《よなか》の事です。
 好《い》い月だこと、まあ、とそのまま手を取って床板を蹈んで出ると、小窓《こまど》が一つ。それにも障子《しょうじ》がないので、二人で覗《のぞ》くと、前の甍《いらか》は露が流れて、銀が溶けて走るよう。

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