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 『薬草取』 青空文庫

 好《い》い月だこと、まあ、とそのまま手を取って床板を蹈んで出ると、小窓《こまど》が一つ。それにも障子《しょうじ》がないので、二人で覗《のぞ》くと、前の甍《いらか》は露が流れて、銀が溶けて走るよう。
 月は山の端《は》を放れて、半腹《はんぷく》は暗いが、真珠を頂いた峰はが澄んだか明るいので、山は、と聞くと、医王山だと言いました。
 途端にくゎいと狐が鳴いたから、娘は緊乎《しっか》と私を抱く。その胸に額《ひたい》を当てて、私は我知らず、わっと泣いた。

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