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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 そのまゝ熟と覗いて居ると、薄黒く、ごそ/\と雪を踏んで行く、伊作の袖の傍を、ふはりと巴の提灯が点いて行く。おゝ今、窓下では提灯を持つては居なかつたやうだ。――それに、もうやがて、庭を横ぎつて、濡縁か、戸口に入りさうだ、と思ふまで距つた。遠いまで小さく見える、唯少時して、ふとあとへ戻るやうな、やや大きく成つて、あの土間廊下の外の、萱屋根のつま下をすれ/\に、段々此方へ引返す、引返すのが、気の所為だか、いつの間にか、中へ入つて、土間の暗がりを点れて来る。……橋がかり、一方が洗面所、突当たりが湯殿……ハテナとぎよツとするまで気づかうたのは、その点れて来る提灯を、座敷へ振り返らずに、逆に窓から庭の方に乗出しつゝ見て居る事であつた。

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