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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
敷蒲団の綿も暖かに、熊の皮の見事なのが敷いてあるわ。はゝあ、膝栗毛時代に、峠路で売つて居た、猿の腹ごもり、大蛇の肝、獣の皮と言ふのは此れだ、と滑稽た殿様に成つて件の熊の皮に着座に及ぶと、すぐに台十能へ火を入れて女中さんが上つて来て、惜気もなく銅の大火鉢へ打まけたが、又夥多しい。青い火さきが、堅炭を搦んで、真赤に〓《おこ》つて、窓に沁入る山颪は颯と冴える。三階に此の火の勢は大地震のあとでは、些と申すのも憚りあるばかりである。
湯にも入つた。
さて膳だが、――蝶足の上を見ると、蕎麦扱にしたは気恥かしい。わらさの照焼はとにかくとして、ふつと煙の立つ厚焼の玉子に、椀が真白な半ぺんの葛かけ、皿についたのは、此のあたりで佳品と聞く、鶫を、何と、頭を猪口に、股をふつくり、胸を開いて、五羽、殆ど丸焼にして芳しくつけてあつた。
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