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 『義血侠血』 青空文庫

 馬車はこの怪しき人をもって満員となれり。発車の号令は割るるばかりにしばらく響けり。向者《さき》より待合所の縁に倚りて、一篇の書を繙ける二十四、五の壮佼《わかもの》あり。盲縞《めくらじま》の腹掛け、股引きに汚れたる白小倉の背広を着て、ゴムの解《ほつ》れたる深靴を穿き、鍔広《つばびろ》なる麦稈《むぎわら》帽子を阿弥陀に被りて、踏ん跨ぎたる膝の間に、茶褐色なる渦毛の犬の太くたくましきを容れて、その頭を撫でつつ、専念に書見したりしが、このとき鈴の音を聞くと斉《ひと》しく身を起こして、ひらりと御者台に乗り移れり。

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