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 『薬草取』 青空文庫

 それから昨夜《ゆうべ》の、その月の射す窓から密《そっ》と出て、瓦屋根《かわらやね》へ下りると、夕顔の葉の搦《から》んだ中へ、梯子《はしご》が隠して掛けてあった。伝《つたわ》って庭へ出て、裏木戸の鍵をがらりと開けて出ると、有明月《ありあけづき》の山の裾《すそ》。
 医王山は手に取るように見えたけれど、これは秘密の山の搦手《からめて》で、其処《そこ》から上《のぼ》る道はないですから、戸室口《とむろぐち》へ廻って、攀《よ》じ上《のぼ》ったものと見えます。さあ、此処《ここ》からが目差《めざ》す御山《おやま》というまでに、辻堂《つじどう》で二晩《ふたばん》寝ました。

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