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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 月に浪が懸りますように、さらさらと、風が吹きますと、揺れながらこの葦簀の蔭が、格子縞のように御袖へ映って、雪の膚まで透通って、四辺《あたり》には影もない。中空を見ますれば、白鷺の飛ぶような雲が見えて、ざっと一浪打ちました。
 爺どのは慄然《ぞっ》として、はい、はい、と柔順《すなお》になって、縄を解くと、ずりこけての、嘉吉のあの図体が、どたりと荷車から。貴女《あなた》は擡《もた》げた手を下へ、地の上へ着けるように、嘉吉の頭を下ろさっせえた。

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