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 『婦系図』 青空文庫

 ものの半時ばかり経つと、同じ腕車《くるま》は、通《とおり》の方から勢《いきおい》よく茶畑を走って、草深の町へ曳込《ひきこ》んで来た。時に車上に居たものを、折から行違った土地の豆腐屋、八百屋、(のりはどうですね――)と売って通る女房《かみさん》などは、若竹座へ乗込んだ俳優《やくしゃ》だ、と思ったし、旦那が留守の、座敷から縁越に伸上ったり、玄関の衝立《ついたて》の蔭になって差覗いた奥様連は、千鳥座で金色夜叉を演《す》るという新俳優の、あれは貫一に扮《な》る誰かだ、と立騒いだ。

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