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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「ええ、串戯《じょうだん》にも、氏神様の知己《ちかづき》じゃと言わっしゃりましたけに、嘉吉を荷車に縛りましたのは、明神様の同一《おなじ》孫児を、継子扱いにしましたようで、貴女《あなた》へも聞えが悪うござりますので。
 綿の上積一件から荷に奴を縛ったは、爺どのが自分したではない事を、言訳がましく饒舌《しゃべ》りますと、(可いから、お前は彼方《あっち》へ、)と、こうじゃとの。
 (可かあねえだ。もの、理合《りあい》を言わねえ事にゃ、ハイ気が済みましねえ。お前様も明神様お知己《ちかづき》なら聞かっしゃい。老耄《おいぼれ》の手《てん》ぼう爺に、若いものの酔漢《よいどれ》の介抱が何《あに》、出来べい。神様も分らねえ、こんな、くだま野郎を労《いたわ》って遣らっしゃる御慈悲い深い思召《おぼしめし》で、何でこれ、私《わし》ら婆様の中に、小児《こども》一人授けちゃくれさっしゃらぬ。それも可い、ない子だねなら断念《あきら》めべいが、提灯で火傷をするのを、何で、黙って見てござった。私《わし》が手《てん》ぼうでせえなくば、おなじ車に結えるちゅうて、こう、けんどんに、倒《さかしま》にゃ縛らねえだ。初対面のお前様見さっしゃる目に、えら俺《わし》が非道なようで、寝覚が悪い、)と顱巻《はちまき》を掉立《ふりた》てますと、のう。

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