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『人魚の祠』 青空文庫
成程、近々と見ると、白い小さな花の、薄《うつす》りと色着《いろづ》いたのが一ツ一ツ、美《うつくし》い乳首のやうな形に見えた。
却説《さて》、日が暮れて、其の帰途《かへり》である。
私たちは七丁目の終点から乗つて赤坂の方へ帰つて来た……あの間の電車は然《さ》して込合ふ程では無いのに、空怪しく雲脚が低く下つて、今にも一降《ひとふり》来さうだつたので、人通りが慌《あわたゞ》しく、一町場《ひとちやうば》二町場《ふたちやうば》、近処へ用たしの分も便つたらしい、停留場毎に乗人《のりて》の数が多かつた。
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