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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
そんなこんなで、其処が魔所だの風説は、近頃一層甚しくなって、知らずに大崩壊《おおくずれ》へ上るのを、土地の者が見着《みつ》けると、百姓は鍬を杖支《つえつ》き、船頭は舳《みよし》に立って、下りろ、危い、と声を懸ける。
実際魔所でなくとも、大崩壊《おおくずれ》の絶頂は薬研を俯向けに伏せたようで、跨《また》ぐと鐙のないばかり。馬の背に立つ巌、狭く鋭く、踵《くびす》から、爪先から、ずかり中窪に削った断崖《がけ》の、見下ろす麓の白浪に、揺落《ゆりおと》さるる思《おもい》がある。
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