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 『義血侠血』 青空文庫

 渠の形躯《かたち》は貴公子のごとく華車《きゃしゃ》に、態度は森厳《しんげん》にして、そのうちおのずから活溌《かっぱつ》の気を含めり。陋《いや》しげに日に〓《くろ》みたる面も熟視《よくみ》れば、清〓明眉《せいろめいび》、相貌秀でて尋常《よのつね》ならず。とかくは馬蹄の塵に塗れて鞭を揚ぐるの輩にあらざるなり。
 御者は書巻を腹掛けの衣兜《かくし》に収め、革紐《かわひも》を附けたる竹根の鞭を執りて、徐《しず》かに手綱を捌きつつ身構うるとき、一輛の人力車ありて南より来たり、疾風のごとく馬車のかたわらを掠めて、瞬く間《ひま》に一点の黒影となり畢《おわ》んぬ。

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