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 『薬草取』 青空文庫

 採って前髪《まえがみ》に押頂《おしいただ》いた時、私の頭《つむり》を撫《な》でながら、余《あまり》の嬉《うれ》しさ、娘ははらはらと落涙《らくるい》して、もう死ぬまで、この心を忘れてはなりませんと、私の頭《つむり》に挿《さ》させようとしましたけれども、髪は結んでないのですから、そこで娘が、自分の黒髪に挿しました。人の簪《かんざし》の花になっても、月影に色は真紅《しんく》だったです。
 母様《おっかさん》の御大病《ごたいびょう》、一刻も早くと、直《すぐ》に、女ヶ原を後《あと》にしました
 引返す時は、苦《く》もなく、すらすらと下りられて、早や暁《あかつき》の鶏《とり》の声。

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