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 『婦系図』 青空文庫

 部屋で、先刻《さっき》これを着た時も、乳を圧えて密《そっ》と袖を潜《くぐ》らすような、男に気を兼ねたものではなかった。露《あらわ》にその長襦袢に水紅《とき》色の紐をぐるぐると巻いた形《なり》で、牡丹の花から抜出たように縁の姿見の前に立って、
(市川菅女。)と莞爾々々《にこにこ》笑って、澄まして袷を掻取《かいと》って、襟を合わせて、ト背向《うしろむ》きに頸《うなじ》を捻《ね》じて、衣紋つきをした時、早瀬が縁のその棚から、ブラッシを取って、ごしごし痒《かゆ》そうに天窓《あたま》を引掻《ひっか》いていたのを見ると、

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