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 『薬草取』 青空文庫

 恍惚《うっとり》した小児《こども》の顔を見ると、過日《いつか》の四季の花染《はなぞめ》の袷《あわせ》を、ひたりと目の前へ投げて寄越《よこ》して、大口《おおぐち》を開《あ》いて笑った。
 や、二人とも気に入った、坊主《ぼうず》は児《こ》になれ、女はその母《おっか》になれ、そして何時《いつ》までも娑婆《しゃば》へ帰るな、と言ったんです。
 娘は乱髪《みだれがみ》になって、その花を持ったまま、膝に手を置いて、首垂《うなだ》れて黙っていた。その返事を聞く手段であったと見えて、私は二晩、土間の上へ、可恐《おそろし》い高い屋根裏に釣った、駕籠《かご》の中へ入れて釣《つる》されたんです。紙に乗せて、握飯《にぎりめし》を突込《つッこ》んでくれたけれど、それが食べられるもんですか。

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