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『星あかり』 泉鏡花を読む
曳いて来たは空車で、青菜も、藁も乗つて居はしなかつたが、何故か、雪の下の朝市に行くのであらうと見て取つたので、なるほど、星の消えたのも、空が淀んで居るのも、夜明に間のない所為であらう。墓原へ出たのは十二時過、それから、あゝして、あゝして、と此処まで来た間のことを心に繰返して、大分の時間が経つたから。
と思ふ内に、車は自分の前、ものゝ二三間隔たる処から、左の山道の方へ曲つた。雪の下へ行くには、来て、自分と摺れ違つて後方へ通り抜けねばならないのに、と怪みながら見ると、ぼやけた色で、夜の色よりも少し白く見えた車も、人も、山道の半あたりで、ツイ目のさきにあるやうな、大きな、鮮な形で、ありのまゝ衝と消えた。
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