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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「桔梗ヶ原とは申しますが、それは、秋草は綺麗に咲きます、けれども、桔梗ばかりと言ふのではございません。唯其の大池の水が真桔梗の青い色でございます。桔梗は却つて、白い花のが見事に咲きますのでございまして……
 四年あとに成りますが、正午と言ふのに、此の峠向うの藪原宿から火が出ました。正午の刻の火事は大きく成ると、何国でも申しますが、全く大焼でございました。
 山王様の丘へ上りますと、一目に見えます。火の手は、七條にも上がりまして、ぱち/\ぱん/\と燃る音が手に取るやうに聞えます。……あれは山間の瀧か、いや、ぽんぷの水の走るのだと申すくらゐ。此の大南風の勢では、山火事に成つて、やがて、こゝもとまで押寄せはしまいかと案じますほどの激しさで、駈けつけるものは駈けつけます、騒ぐものは騒ぐ。私なぞは見物の方で、お社前は、おなじ夥間で充満でございました。

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