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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 二百十日の荒れ前で、残暑の激しい時でございましたから、つい/\少しづゝお社の森の中へ火を見ながら入りましたにつけて、不断は、しつかり行くまじきとしてある処ではございますが、此の火の陽気で、人の気の湧いて居る場処から、深いと言つても半町とはない。大丈夫と。処で、私、陰気もので、余り若衆づきあひがございませんから、誰を誘ふでもあるまいと、杉檜の森々としました中を、それも、思つたほど奥が深くもございませんで、一面の草花。……い桔梗でへりを取つた百畳敷ばかりの真青な池が、と見ますと、その汀、ものゝ二、……三……十間とはない処に……お一人、何ともおうつくしい御婦人が、鏡台を置いて、斜に向つて、お化粧をなさつて在らつしやいました。

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