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 『泉鏡花自筆年譜』 泉鏡花を読む

 明治三十九年二月、祖を喪ふ。年八十七。七月、ますます健康を害(そこな)ひ、静養のため、逗子、田越に借家。一夏の仮すまひ、やがて四年越の長きに亘れり。殆ど、粥と、じゃが薯を食するのみ。十一月、「春昼」新小説に出づ。うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき。雨は屋(おく)を漏り、梟軒に鳴き、風は欅の枝を折りて、棟の柿(こけら)葺を貫き、破(やれ)衾の天井を刺さむとす。蘆の穂は霜寒き秋に散り、ささ蟹は、むれつつ畳を走りぬ。「春昼後刻」を草せり。蝶か、夢か、殆ど恍惚の間にあり。李長吉は、其の頃嗜みよみたるもの。

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