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 『薬草取』 青空文庫

 花を枕頭《まくらもと》に差置《さしお》くと、その時も絶え入っていた母は、呼吸《いき》を返して、それから日増《ひまし》に快《よ》くなって、五年経ってから亡くなりました。魔隠《まかくし》に逢った小児《こども》が帰った喜びのために、一旦《いったん》本復《ほんぷく》をしたのだという人もありますが、私は、その娘の取ってくれた薬草の功徳《くどく》だと思うです。
 それにつけても、恩人は、と思う。娘は山賊に捕われた事を、小児心《こどもごころ》にも知っていたけれども、堅《かた》く言付《いいつ》けられて帰ったから、その頃三ヶ国横行《おうこう》の大賊《たいぞく》が、つい私どもの隣《となり》の家《うち》へ入った時も、何《なんに》も言わないで黙っていました。

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