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 『薬草取』 青空文庫

 けれども、それから足が附いて、二俣《ふたまた》の奥、戸室《とむろ》の麓《ふもと》、岩で城を築《つ》いた山寺に、兇賊《きょうぞく》籠《こも》ると知れて、まだ邏卒《らそつ》といった時分、捕方《とりかた》が多人数《たにんず》、隠家《かくれが》を取巻いた時、表門の真只中《まっただなか》へ、その親仁《おやじ》だと言います、六尺一つの丸裸体《まるはだか》、脚絆《きゃはん》を堅く、草鞋《わらじ》を引〆《ひきし》め、背中へ十文字に引背負《ひっしょ》った、四季の花染《はなぞめ》の熨斗目《のしめ》の紋着《もんつき》、振袖《ふりそで》が颯《さっ》と山颪《やまおろし》に縺《もつ》れる中に、女の黒髪《くろかみ》がはらはらと零《こぼ》れていた。

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