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 『国貞えがく』 青空文庫

 と言う太い声。箱のような仕切戸から、眉の迫った、頬の膨れた、への字の口して、小鼻の筋から頤へかけて、べたりと薄髯の生えた、四角な顔を出したのは古本屋の亭主で。……この顔と、その時の口惜《くやし》さを、織次は如何にしても忘れられぬ。
 絵はもう人に売った、と言った。
 見知越の仁ならば、知らせて欲い、何処へ行って頼みたい、と祖母《としより》が言うと、ちょいちょい見懸ける男だが、この土地のものではねえの。越後へ行く飛脚だによって、脚が疾《はや》い。今頃はもう二股を半分越したろう、と小窓に頬杖を支《つ》いて嘲笑った。

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