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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 時に、弱りものゝ画師さんの、その深い馴染と言ふのが、もし、何と……お艶様――手前どもへ一人でお泊りに成つた其の御婦人なんでございます。……一寸申上げて置きますが、これは画師さんのあとをたづねて、雪を分けておいでに成つたのではございません。その間が雑と半月ばかりございました。その間に、唯今申しました、姦通騒ぎが起つたのでございます。」
 と料理番は一息した。
「其処で……また代官婆に変な癖がございましてな、癖より病で――或るもの知の方に承りましたのでは、訴訟狂とか申すんださうで、葱が枯れたと言つては村役場だ、小児が睨んだと言へば交番だ。……派出所だ裁判だと、何でも上沙汰にさへ持出せば、我に理があると、それ貴客、代官婆だけに思込んで居りますのでございます。

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