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 『婦系図』 青空文庫

 中途で談話《はなし》に引入れられて鬱《ふさ》ぐくらい、同情もしたが、芸者なんか、ほんとうにお止しなさいよ、と夫人が云う。主税は、当初《はじめ》から酔わなきゃ話せないで陶然としていたが、さりながら夫人、日本広しといえども、私にお飯《まんま》を炊てくれた婦《おんな》は、お蔦の他ありません。母親の顔も知らないから、噫《ああ》、と喟然《きぜん》として天井を仰いで歎ずるのを見て、誰がい顔をしてまで、貸家を聞いて上げました、と流眄《しりめ》にかけて、ツンとした時、失礼ながら、家で命は繋《つな》げません、貴女は御飯が炊けますまい。明日は炊くわ。米を〓《に》るのだ、と笑って、それからそれへ花は咲いたのだったが、しかし、気の毒だ、可哀相に、と憐愍《あわれみ》はしたけれども、徹頭徹尾、(芸者はおよしなさい。)……この後たとい酒井さんのお許可《ゆるし》が出ても、私が不承知よ。で、さてもう、夜が更けたのである。

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