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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 これでまた爺どのは悚然《ぞっ》としたげな。のう、如何な事でも、明神様の知己《ちかづき》じゃ言わしったは串戯《じょうだん》で、大方は、葉山あたりの誰方のか御別荘から、お忍びの方と思わしっけがの。
 今行かっしゃるのは反対《あべこべ》に秋谷の方じゃ。……はてな、と思うと、変った事は、そればかりではござりませぬよ。
 嘉吉の奴がの、あろう事か、慈悲を垂れりゃ、何とやら。珠は掴む、酒の上じゃ、はじめは唯、御恩返しじゃの、お名前を聞きたいの、唯一目お顔の、とこだわりましけ。柳に受けて歩行《ある》かっしゃるで、機織場の姉やが許へ、夜さり、畔道を通う時の高声の唄のような、真似もならぬ大口利いて、果は増長この上なし、袖を引いて、手を廻して、背後《うしろ》から抱きつきおる。

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