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『婦系図』 青空文庫
それを掻払《かいはら》うごとく、目の上を両手で無慚《むざん》に引擦《ひっこす》ると、ものの香はぱっと枕に遁げて、縁側の障子の隅へ、音も無く潜んだらしかったが、また……有りもしない風を伝って、引返《ひっかえ》して、今度は軽《かろ》く胸に乗る。
寝返りを打てば、袖の煽《あおり》にふっと払われて、やがて次の間と隔ての、襖の際に籠った気勢《けはい》、原《もと》の花片《はなびら》に香が戻って、匂は一処に集ったか、薫が一汐《ひとしお》高くなった。
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