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 『婦系図』 青空文庫

 寝返りを打てば、袖の煽《あおり》にふっと払われて、やがて次の間と隔ての、襖の際に籠った気勢《けはい》、原《もと》の花片《はなびら》に香が戻って、匂は一処に集ったか、薫が一汐《ひとしお》高くなった。
 快い、さりながら、強い刺戟を感じて、早瀬が寝られぬ目を開けると、先刻《さっき》(お休みなさい。)を云った時、菅子がそこへ長襦袢の模様を残した、襖の中途の、人の丈の肩あたりに、幻の花環は、色が薄らいで、花も白澄んだけれども、まだ歴々《ありあり》と瞳にる。

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