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 『婦系図』 青空文庫

 快い、さりながら、強い刺戟を感じて、早瀬が寝られぬ目を開けると、先刻《さっき》(お休みなさい。)を云った時、菅子がそこへ長襦袢の模様を残した、襖の中途の、人の丈の肩あたりに、幻の花環は、色が薄らいで、花も白澄んだけれども、まだ歴々《ありあり》と瞳に映る。
 枕に手を支き、むっくり起きると、あたかもその花環の下、襖の合せ目の処に、残燈《ありあけ》の隈《くま》かと見えて、薄紫に畳を染めて、例の菫色の手巾《ハンケチ》が、寂然《せきぜん》として落ちたのに心着いた。

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