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 『古狢』 青空文庫

 口のあたりが、びくりと動き、苔《こけ》の青い舌を長く吐いて、見よ見よ、べろべろと舐《な》め下ろすと、湯葉は、ずり下《さが》り、めくれ下《お》り、黒い目金と、耳までのマスクで、口が開いた、その白い顔は、湯葉一枚を二倍にして、土間の真中《まんなか》に大きい。
 同時に、蛇のように、再び舌が畝《うね》って舐め廻すと、ぐしゃぐしゃと顔一面、山女《あけび》を潰《つぶ》して真《まっか》になった。
 お町の肩を、両手でしっかとしめていて、一つ所に固《かたま》った、我が足がよろめいて、自分がドシンと倒れたかと思う。名古屋の客は、前のめりに、近く、第一の銅鍋の沸上った中へ面《おもて》を捺《お》して突伏《つっぷ》した。

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