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 『古狢』 青空文庫

 お町の肩を、両手でしっかとしめていて、一つ所に固《かたま》った、我が足がよろめいて、自分がドシンと倒れたかと思う。名古屋の客は、前のめりに、近く、第一の銅鍋の沸上った中へ面《おもて》を捺《お》して突伏《つっぷ》した。
「あッ。」
 片手で袖を握《つか》んだ時、布子の裾のこわばった尖端《とっさき》がくるりと刎《は》ねて、媼《ばばあ》の尻が片隅へ暗くかくれた。竈《かまど》の火は、炎を潜めて、一時《いっとき》に皆消えた。

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