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 『薬草取』 青空文庫

 月影が射したから、伏拝《ふしおが》んで、心を籠《こ》めて、透《す》かし透かし見たけれども、〓《みまわ》したけれども、見遣《みや》ったけれども、ものの薫《かおり》に形あって仄《ほのか》に幻《まぼろし》かと見ゆるばかり、雲も雪も紫も偏《ひとえ》に夜の色に紛《まぎ》るるのみ。
 殆《ほとん》ど絶望して倒れようとした時、思い懸《が》けず見ると、肩を並べて斉《ひと》しく手を合せてすらりと立った、その黒髪の花唯《ただ》一輪、《くれない》なりけり月の光に。

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