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 『薬草取』 青空文庫

 殆《ほとん》ど絶望して倒れようとした時、思い懸《が》けず見ると、肩を並べて斉《ひと》しく手を合せてすらりと立った、その黒髪の花唯《ただ》一輪、紅《くれない》なりけり月の光に。
 高坂がその足許《あしもと》に平伏《ひれふ》したのは言うまでもなかった。
 その時肩を落して、美女《たおやめ》が手を取ると、取られて膝をずらして縋着《すがりつ》いて、その帯のあたりに面《おもて》を上げたのを、月を浴びて〓長《ろうた》けた、優しい顔で熟《じっ》と見て、少し頬《ほお》を傾けると、髪がそちらへはらはらとなるのを、密《そ》と押える手に、簪《かざし》を抜いて、戦《わなな》く医学生の襟《えり》に挟《はさ》んで、恍惚《うっとり》したが、瞳《ひとみ》が動き、

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