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 『龍潭譚』 青空文庫

 いまだ家には遠しとみゆるに、忍びがたくも姉の顔なつかしく、しばらくも得堪へずなりたり。
 再びかけのぼり、またかけりおりたる時、われしらず泣きてゐつ。泣きながらひたばしりに走りたれど、なほ家ある処に至らず、坂も躑躅も少しもさきに異らずして、日の傾くぞ心細き。肩、背のあたり寒うなりぬ。ゆふ日あざやかにぱつと茜さして、眼もあやに躑躅の花、ただの雪の降積めるかと疑はる。

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