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 『龍潭譚』 青空文庫

 再びかけのぼり、またかけりおりたる時、われしらず泣きてゐつ。泣きながらひたばしりに走りたれど、なほ家ある処に至らず、坂も躑躅も少しもさきに異らずして、日の傾くぞ心細き。肩、背のあたり寒うなりぬ。ゆふ日あざやかにぱつと茜さして、眼もあやに躑躅の花、ただ紅の雪の降積めるかと疑はる。
 われは涙の声たかく、あるほど声を絞りて姉をもとめぬ。一たび二たび三たびして、こたへやすると耳を澄せば、遥に滝の音聞えたり。どうどうと響くなかに、いと高く冴えたる声の幽《かすか》に、

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