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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
「直きその、向う手を分け上りますのが、山一ツ秋谷在へ近道でござりまして、馬車《うまくるま》こそ通いませぬけれども、私《わし》などは夜さり店を了いますると、お菓子、水菓子、商物《あきないもの》だけを風呂敷包、ト背負《しょ》いまして、片手に薬缶《やかん》を提げたなりで、夕焼にお前様、影をのびのび長々と、曲った腰も、楽々小屋へと帰りますがの。
貴女《あなた》は其処へ。……お裾が靡いた。
これは不思議、と爺《じじい》どのが、肩を半分乗出す時じゃ、お姿が波を離れて、山の腹へすらりと高うなったと思うと、はて、何を嘉吉がしくさりましたか。
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