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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「――どんな用事の御都合にいたせ、夜中、近所が静りましてから、お艶様が、おたづねに成らうと言ふのが、代官婆の処と承つては、一人ではお出し申されません。たゞ道だけ聞けばとの事でございましたけれども、おともが直接について悪ければ、垣根、裏口にでもひそみまして、内々守つて進じようで……帳場が相談をしまして、其の人選に当りましたのが、此の、不つゝかな私なんでございました。……
 お支度がよろしくばと、私、此へ……此のお座敷へ提灯を持つて伺ひますと……」
「あゝ、二つ巴の紋のだね。」と、つい誘はれるやうに境が言つた。

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