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 『歌行燈』 従吾所好

「あんたもな、按摩の目は蠣〈かき〉や云ひます。名物は蛤ぢやもの、別に何も、多い訳はないけれど、こゝは新地なり、旅篭屋のある町やに因つて、つい、あの衆が、彼方此方から稼ぎに来るわな。」
「然うだ、成程新地〈くるわ〉だつた。」と何故か一人で納得して、気の抜けたやうな片手を支く。
「お師匠さん、あんた、これから其の音声〈のど〉を芸妓屋の門で聞かしてお見やす。真個〈ほん〉に、人死が出来ようも知れぬぜな。」と襟の処で、塗盆をくるりと廻す。

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