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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 (お艶さん、私は然う存じます。私が、貴女ほどお美しければ、こんな女房がついて居ます。何の夫が、木曽街道の女なんぞに。と姦通呼はりをする其の婆に、然う言つて遣るのが一番早分りがすると思ひます。)(えゝ、何よりですともさ。それよりか、尚ほ其上に、お妾でさへ此のくらゐだ。と言つて私を見せて遣ります方が、上に尚ほ奥さんと言ふ、奥行があつて可うございます。――奥さんのほかに、私ほどのいろがついて居ます。田舎で意地ぎたなをするもんですか。婆に然う言つてやりませうよ。そのお嫁さんのためにも。)

「――あとで、お艶様の、したゝめもの、かきおきなどに、此の様子が見える事に、何とも何うも、つい立至つたのでございまして。……此でございますから、何の木曽の山猿なんか、しかし、念のために土地の女の風俗を見ようと、山王様御参詣は、その下心だつたかと存じられます。……処を、桔梗ヶ池の凄い、美しいお方の事をおきゝなすつて、これが時々人目にも触れると云ふので、自然、代官婆の目にもとまつて居て、自分の容色の見劣りがする段には、美しさで勝つことは出来ないと云ふ、覚悟だつたと思はれます。――尤も西洋剃刀をお持ちだつたほどで、――それで不可なければ、世の中に煩い婆、人だすけに切つ了ふ――それも、かきおきにございました。

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