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 『星あかり』 泉鏡花を読む

 何故かは知らぬが、此船にでも乗つて助からうと、片手を舷に添へて、あわたゞしく擦り上がらうとする、足が砂を離れて空にかゝり、胸が前屈みになつて、がつくり俯向いた目に、船底に銀のやうな水が溜つて居るのを見た。
 思はず、あツといつて失望した時、轟々轟といふ波の音。山を覆したやうに大畝が来たとばかりで、――跣足で一文字に引返したが、吐息もならず――、寺の門を入ると、其処まで透間もなく追縋ツた、灰汁を覆したやうなは、自分の背から放れて去つた。

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