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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 軈て二階に寝床を拵へてくれた、天井は低いが、梁は丸太で二抱もあらう、屋の棟から斜に渡つて座敷の果の廂の処では天窓に支へさうになつて居る、巌乗な屋造、是なら裏の山から雪崩が来てもびくともせぬ。
 特に炬燵が出来て居たから私は其まゝ嬉しく入つた。寝床は最う一組同一炬燵に敷いてあつたが、旅僧は之には来らず、横に枕を竝べて、火の気のない臥床に寝た。
 寝る時、上人は帯を解かぬ、勿論衣服も脱がぬ、着たまゝ円くなつて俯向形に腰からすつぽりと入つて、肩に夜具の袖を掛けると手を突いて畏つた、其の様子は我我と反対で、顔に枕をするのである。

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