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 『婦系図』 青空文庫

 車を待たせて、立附けの悪い門をあければ、女の足でも五歩《いつあし》は無い、直き正面の格子戸から物静かに音ずれたが、あの調子なれば、話声は早や聞えそうなもの、と思う妹の声も響かず、可訝《おかし》なをして出て来ようと思ったその(小使)でもなしに、車夫のいわゆるぺろぺろの先生、早瀬主税、左の袖口の綻《ほころ》びた広袖《どてら》のような絣の単衣でひょいと出て、を見ると、これは、とばかり笑み迎えて、さあ、こちらへ、と云うのが、座敷へ引返《ひっかえ》す途中になるまで、気疾《きばや》に引込んでしまったので、左右《とこう》の暇《いとま》も無く、姉夫人は鶴が山路に蹈迷《ふみまよ》ったような形で、机だの、卓子《テイブル》だの、算を乱した中を拾って通った。

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