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『婦系図』 青空文庫
と拳《こぶし》を握り緊《し》めて云うのを、半ば驚き、半ば呆れ、且つ恐れて聞いていたようだった。重かった夫人の眉が、ここに至ると微笑《ほほえみ》に開けて、深切に、しかし躾《たしな》めるような優しい調子で、
「お金子《かね》が御入用なんでございますか。」
と胸へ、しなやかに手を当てたは、次第に依っては、直《すぐ》にも帯の間へ辷って、懐紙《ふところがみ》の間から華奢な(嚢物《ふくろもの》)の動作《こなし》である。道子はしばしば妹の口から風説《うわさ》されて、その暮向《くらしむき》を知っていた。
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