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『国貞えがく』 青空文庫
とひねこびれた声を出し、頤《あご》をしゃくって衣紋を造る。その身動きに、鼬の香《におい》を芬とさせて、ひょこひょこと行く足取が蜘蛛の巣を渡るようで、大天窓《おおあたま》の頸窪《ぼんのくぼ》に、附木ほどな腰板が、ちょこなんと見えたのを憶起《おもいおこ》す。
それが舞台へ懸る途端に、ふわふわと幕を落す。その時木戸に立った多勢の方を見向いて、
「うふん。」といって、目を剥いて、脳天から振下《ぶらさが》ったような、紅い舌をぺろりと出したのを見て、織次は悚然《ぞっ》として、雲の蒸す月の下を家へ遁帰《にげかえ》った事がある。
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