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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「吃驚して土手へ出ますと、川べりに、薄い銀のやうでございましたお姿が見えません。提灯も何も押放出して、自分でわツと言つて駈けつけますと、居処が少しずれて、バツタリと土手腹の雪を枕に、帯腰が谿川の石に倒れておいででした。(寒いわ。)と現のやうに、(あゝ、冷い。)とおつしやると、その唇から糸のやうに三條に分れた血が垂れました。
 ――何とも、かとも、おいたはしい事に――裾をつゝまうといたします、乱れ褄の友染が、色をそのまゝに岩に凍りついて、霜の秋草に触るやうだつたのでございます。――人も立会ひ、抱起し申す縮緬が、氷でバリ/\と音がしまして、古襖から錦絵を剥がすやうで、此の方が、お身体を裂く思がしました。胸に溜つた血は暖く流れましたのに――

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