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 『星あかり』 泉鏡花を読む

 引き息で飛着いた、本堂の戸を、力まかせにがたぴしと開ける、屋根の上で、ガラ/\ガラといふ響。瓦が残らず飛上がつて、舞立つて、乱合つて、打破れた音がしたので、はツと思ふと、目が眩むで、耳が聞えなくなつた。が、うツかりした、疲れ果てた、倒れさうな自分の身体は、……夢中で、色の褪せた、天井の低い、皺だらけな蚊帳の片隅を掴んで、暗くなつた灯の影に、透かして蚊帳の内を覗いた。
 医学生は、肌脱で、うつむけに寝て、踏返した夜具の上へ、両足を投懸けて眠つて居る。
 ト枕を竝べ、仰向になり、胸の上に片手を力なく、片手を投出し、足をのばして、口を結んだ顔は、灯の片影になつて、一人すや/\と寐て居るのを、……一目見ると、其は自分、……であつたので、天窓から氷を浴びたやうに筋がしまつた。

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