検索結果詳細


 『日本橋』 青空文庫

 極って、同じ姿が、うしろ向きに露地口へ立って、すいと入ると途中で消えて、あとは下駄の音ばかりして格子が鳴る。
 勿論、開いたでもなければ、誰も居ない。……これを見たもの、聞いたもの。
 やがて風説も遠退いて、若菜家は格子先のその空地に生える小草に名をのみ留めたが、二階づくりの意気に出来て、ただの住居には割に手広い。……ここで、一度待合になった処、開店の晩に、酔って裏二階から庇合へ落ちて、黒塀の忍返しにぶら下って、半死半生に大怪我をした客があって、すぐに寂れて、間もなく行方知れずそれは引越す。

 331/2195 332/2195 333/2195


  [Index]